SAMPLE
夢の浮き橋 恋を吟いながら歩む
流離のがっき~
気持ち良く寝ていたところに突如と光が差し込む。
眩しさを遮るように手をかざし、静かに瞼を開くと目の前には紫色の草葉が絨毯のように広がっていた。
『……ここはレイクランド……?』
今まで自宅で寝ていたはず、と周りを見渡しながら起き上がり、微睡む頭を起こすように伸びをした所でようやく違和感に気付く。
『空が明るすぎる……これは、無尽光?』
おかしい。アシエン達の目論みを阻止し、第一世界には闇が戻り、無の大地も蘇らせたはずなのに。
光の氾濫を起こした原因を排除したからもう空には無尽光が戻ることは無いはず、としばし考え込んだ。
もしや、新たな驚異が迫っているのではないか?
まずは現状を確認するのが先決だな、とチョコボを呼び出し、急ぎクリスタリウムへと向かった。
「ライナ!」
街の入口の手前、見覚えのある姿を見つけたので、チョコボから飛び降りながら声をかけた。
「あなた……見ない顔ですね。それに出で立ちも」
どこかでお会いしましたか、と彼女は首を傾げた。
何をおかしなことを、と開きかけた口が止まる。
彼女の後ろから走ってくる人物に驚いたから。
おかしい。だって、彼がここに居るはずがない。
彼は原初世界で起こるはずの第八霊災で死ぬ運命にあった
彼は戦いの最後、力を消耗し過ぎた塔と同化した。
役目は終えたと魂と記憶を希望だと私に託して。
第一世界では水晶となり塔の上でこの街を見守る。
原初世界で封印していた身体と同化して自由に。
そして、先程まで隣で寝ていたはずの、私の恋人。
「ライナ、大丈夫か?」
「ええ、水晶公。問題ありません」
『水晶公』何故彼がここに、と私は立ち尽くした。
水晶公に案内され、街を一通り歩いてきた。
見知ったはずの皆が口を揃えて「見ない顔」という。
この状況には覚えがある。初めてクリスタリウムを訪れた時と同じ。まるで、過去視を見ているようだ。
戸惑いながら街を一周し、水晶公の元へと戻った。
「まずは、場所の移動を」
塔の中の執務室へと案内する彼を見て、前は驚いた事を思い出す。だからあの時思わず聞いたんだった。
「もしかして、『ラハ』なのかい……?」
そう、あの時も塔を開けられるのなら君だと思って『グ・ラハ・ティア』と呼んだ。
でも否定され、ガッカリしたのを覚えている。
でも今は彼が誰だか知っている。
だからあえて、名前だけで呼んだ。
私と彼は名前で呼び合う関係だから。
この時はまだそんな関係じゃなかったけれど。
「……し、知らない名だな」
その人物がどうかしたのだろうかと聞かれたから、大切な人なんだと伝えた。若干、彼のフードが動いた気がしたのは、彼の正体を知っているからだろうか。
星見の間で話した後、旅支度をと案内された部屋でひと息つき、そして今起こっていることを整理した。
部屋に案内される前にフェオを紹介してもらった。そして、以前と変わらず契約を交わした。すると彼女は嬉しそうに原初世界へと飛んでいった。どうやら、この状況は彼女のイタズラではないようだ。
部屋ではアルバートも姿を見せた。彼はハーデスとの戦いの際、魂を同化してあと一歩進む力をくれた。
彼は私の中に居て、もう直接会えるはずがない。
やはりここは過去なんだ、とようやく実感した。
過去と知り、脳裏を過ぎるのは救えなかった人たちや手を取り合うことの出来なかった人たちのこと。
テスリーンやホルミンスターで逃げ遅れた人たち、罪喰いと戦いで力尽きた衛兵たち。ならば覚えていろと消えていったエメトセルクに大好きだった人たちのために理由を忘れてなお足掻き続けたエリディブス。
そして、希望は明日へと継がれていくと物語るために、水晶となって胸を張り立ち続ける水晶公。
これから彼らと会うと思うと胸が締め付けられた。
これは過去視──きっと未来は変わらない。
アルフィノ、アリゼーと合流し、星見の間に戻る。
水晶公も交えて今後の方針を話しているところで、ホルミンスターへの襲撃の報せが舞い込んだ。
最初の大罪喰いとの戦いだ。